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人類を変えた素晴らしき10の材料

-人類文化論、鋼鉄からチョコレートまで-

 

 

今回も科学エッセイ。著者の生活、人生における材料とのかかわりを、

それぞれのテーマ毎、全10章+1章にちりばめた、読み応えのある

人類文化論。文明の発展を経て定番の材料から、20世紀も半ばを

過ぎての発明品まで幅広く選んでいる。現代建築の基礎となっている

コンクリートから、人工器官として次世代に花開くであろう素材まで

を著者の視点、着眼点が材料科学の成果を興味深く伝えてくれる。

 


第1章 頑強・・・文明を変えた強くしなやかな「鋼鉄」


金属の発見は人類の歴史の重要な出来事だった。石器時代を終わらせて銅器、

青銅器から鉄器へと合金がどんどん強くなっていった。さらに製鋼の技術を

極めた日本刀が生まれ、15世紀から20世紀の間は史上最高の品質であった。

20世紀に入るとステンレス鋼が金属から腐食を遠ざけ、我々に食器の味を

味わわなくて済むようにした。

 


第2章 信用・・・記憶や愛を刻印する「紙」


中国四大発明の一つされる紙の発明から二千年、記録媒体の寿命で今後紙を

超えるものがあるのか不明である。デジタル時代の高密度記憶媒体である

磁気テープ、光学ディスク、紙に比べたらまだ赤ちゃん程度の歴史である。

 


第3章 基礎・・・社会の土台として進化する「コンクリート


コンクリートの発明はローマ帝国時代に遡る。ローマのパンテオンは2000年の

歴史のある世界最大の無筋コンクリートドームである。その後1000年以上、

コンクリートの建物は建てられなかった。産業革命を経て鋼鉄で強化された、

いわゆる鉄筋コンクリートの登場で、曲げ応力とひび防止により史上最も用途の

多い建材となった。

 

第4章 美味・・・「チョコレート」の秘密


チョコレート独特の食感は、ココアバターという最高の油脂が生み出している。

個体として保存できるが、体温で溶け液体となるということだ。口の中で溶ける

濃厚な脂肪に融けた糖分が放たれ、アルカロイドやフェノールと呼ばれる化学物質

が苦味や渋味をもたらすのである。それらを味蕾で感じるのでなく、多くは嗅覚で

味わっている。アルコールや煙草のように、もしチョコレートが有害で常習性あり、

となったら人類の幸福度は少し下がるかもしれない。

 


第5章 驚嘆・・・空間のかけらを生む「フォーム(泡)」


本章で触れられる「フォーム(泡)」は他の材料と比べ馴染みが薄いかもしれない。

ゼラチン状の個体から液体を抜取り、代わりに気体に置換え骨格が崩れないように

したもの、これが1930年代に発明されたエアロゲルである。宇宙探査に貢献する

世界最高の断熱材、ほとんどの人は一生手にする機会がないものらしい。

 


第6章 想像・・・映画も音楽も「プラスチック」のおかげ


大抵の人はポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)の違いはわからないと

思うが、水の沸騰温度(100℃)に耐えるのがポリプロピレン(PP)である。

例としてコンビニのお弁当ケースがポリプロピレン(PP)で、それを入れる袋は、

大概がポリエチレン(PE)である。

 


第7章 不可視・・・なぜ「ガラス」は透明なのか


昔の鏡は金属面を極限まで磨き上げる必要があった。日本で古墳文化期以前の鏡と

呼ばれる埋蔵物は、現代において金属の腐食や傷により機能は全く失われている。

ローマ人はガラスの層を加えることによって金属部分の厚みを薄くすることで

寿命を延ばすことを発見した。一方19世紀まで東洋にはガラス技術がなかった。

このことが望遠鏡や顕微鏡の発明が出来ず、西洋文明に大きく水を空けられる

理由となったといっても過言ではない。

 


第8章 不可壊・・・「グラファイト」から世界一薄く強固な物質へ


ダイヤモンドを反応する空気の無い状態、真空中で熱するとどうなるか?

黒鉛、すなわち鉛筆の芯になる。グラファイトをダイヤモンドに戻すには

高温と高圧が必要である。しかしグラファイトを紡いで繊維状にすることで

強度と硬度をもたらす発明が生まれた。現代テニスでカーボングラファイト

の材料以外のラケットを持つチャンピオンは出てこないだろう。

 


第9章 洗練・・・技術と芸術が融合した「磁器」


陶器と磁器の違いは何か? どちらも一定の強度と硬度があり食器や鉢壺瓶

などの容器として使われる。しかし陶器は多孔質の材料を使って作るため、

傷や水分の染み込みがある。陶器に釉薬を塗っても内部の穴からひび割れが

起こる。一方磁器は特殊な粘土がガラス状になって内部の隙間を埋め尽くし

表面をコーティングし薄くて丈夫な器になる。西洋では中国から遅れること

1000年以上、牛の骨灰を混ぜてようやく磁器がつくられることとなった。

よって「ボーンチャイナ」は地元の材料で作った独自の磁器である。

 


第10章 不死・・・98歳でサッカーを楽しむ「インプラント」の私


インプラントとは、歯の治療のみならず体内に埋め込まれる器具の総称。

これから先、人間の寿命を延ばすことと、寿命を迎えるまでずっと健康

なままで生活することが医療の目的になる。人体に拒絶されない材料が

多く見つかり、いろんな器官の置換が行われることで実現できるだろう。

 


第11章 人工・・・材料科学の未来


地球上の材料はさまざまな実体が組み合わさっていて、その基本は全て

原子から成り立っている。原子からナノ、ミクロ、マクロ、ミニチュア、

人間へとスケールを変えて捉えるマルチスケール構造を発見したことが

材料科学の成果である。

 

 

(2015.11.29)